吃音者の人権を守るために、いま、何ができるだろう?「吃音ドクター」菊池良和先生に学ぶ

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さる5月24日、公益財団法人 人権教育啓発推進センターによって「芝大門人権講座 吃音児・者と母親の人権を守る医師」という講演会が開催されました。

話し始めの言葉に詰まったり、言葉を繰り返したりする「吃音」。体質や特性などにより、2~4歳児の20人に1人が発症している言語障害です。
多くは子どものうちに自然と治っていきますが、中には成人後も症状に悩まされるケースもあります。

100人子どもが生まれたら、そのうちの5人が吃音児。さらにその中の1人が、8歳以降も症状を持続させることになる計算です。
こうした現状の中で、吃音を持つ子どもやその母親はどのような境遇に置かれてきたのでしょうか?

今回の記事では、先述のセミナーにて登壇された吃音ドクター・菊池良和先生の講演を元に、「吃音児・者と母親の人権」について考えてまいります。

吃音ドクター・菊池良和先生って?

菊池良和先生

今回のセミナーでお話してくださったのは、九州大学病院の耳鼻咽喉・頭頸部外科の医師、医学博士の菊池良和先生。
ご自身も吃音の当事者であり、研究者、医師として吃音への理解を進める講演活動を積極的に行われています。

二つ名がつくきっかけとなった著書『ボクは吃音ドクターです。』(毎日新聞社 2011年)は、先生が現在に至るまでに、ご自身の吃音とどのように向き合ってきたかを綴ったエッセイ。
以来先生は、吃音支援に関する著書を多く執筆なされています。

吃音と差別の歴史

引用:芝大門人権講座 吃音児・者と母親の人権を守る医師 資料

こちらは2016年8月17日の毎日新聞の紙面。吃音者に対するアンケート結果で、「吃音に対する差別・無理解がある」と回答した人は全体の6~7割にも上りました。
2014年にも、「吃音に対する理解が得られなかった」として、北海道の男性看護師が自殺したニュースが世間を騒がせたのは記憶に新しいですよね。
吃音に対する差別や無理解は、今もまだ確かに存在しています。

それでは、これまでの日本において、「吃音」は一体どのようなものだったのでしょうか?

「どもりは人真似、伝染病」

1930~40年代の社会では、吃音は「小さい頃に親や友達の真似をして起こること」「伝染病(=真似)だから早期矯正が大切」といった認識をされていました。
つまり吃音児は「吃音が移るから」という理由で、友達と一緒に遊ぶことができなかったのです。

吃音は治るもの

またその頃、明治・大正期の教育学者である伊澤修二氏が、日本初となる吃音矯正学校「楽石社」を創設しました。呼吸や発声・精神面強化の訓練を行い、卒業試験で課題の文章をすらすら言えたら完治……とみなすものです。
以来日本では戦前から戦後にかけてさまざまな矯正所が創設され、「吃音は治せるもの、治さないのは恥」「病気ではなく悪癖」という風潮が生まれます。

結果、当時の吃音児・者やその母親はこのような差別を受けることになりました。

・吃音者:「どもる権利」「どもりながら生きる権利」を奪われる
・母親:吃音は「人真似」が原因=母親がいい手本になっていない、しつけが悪いからだと言われる

現在の吃音はどのような位置づけなのか?

引用:芝大門人権講座 吃音児・者と母親の人権を守る医師 資料

1970~80年代になると、創立10年目を迎えた言友会(吃音者の集い)によって、「吃音を治す努力の否定」がなされます。吃音を治すのではなく、克服する……上手に付き合う方針へと転換されたのです。

また2013年には研究により、吃音の発症には子どもの気質も母親の精神状態も関係ない、ということが明らかになりました。
歌う時はどもらない、誰かと一緒に「せーの」で文章を読むとつかえない……といった特徴から、吃音は話し始めのタイミングがあわない・つかめない「内的タイミング障害」であると考えられるようになったのです。

私たちにできることは?


引用:芝大門人権講座 吃音児・者と母親の人権を守る医師 資料

しかし、それが世間にはまだ浸透していません。
昔あった誤解から「吃音は母親のしつけが悪いせい」と周囲に言われた吃音児の母親は、どもりに対して後ろ向きになり、子どもがどもる度に叱ったり焦ったりしてしまいます。すると子どもも「自分が悪いんだ」と追い詰められ、吃音もますます強くなってしまいます。
そして成長につれて不登校、引きこもりといった対人恐怖症に陥ってしまう恐れがあるのです。

それでは、私たちが吃音児・者と母親のためにできることは何でしょうか?

母親の味方になること

吃音児・者の母親の心理段階には、

  • 1.ショック:我が子が吃音であると発覚して衝撃を受ける
  • 2.否認:「そのうち治るから大丈夫、吃音じゃない」と症状を認めない
  • 3.怒り・悲しみ:焦りから「何で治らないの!?」と怒ったり、「私のせいかも、この子の将来はどうなるんだろう」と悲しんだりする
  • 4.適応:吃音に対して向き合っていく方向へ向かう
  • 5.再起:吃音を受け入れ、周囲の協力を仰げるようになる

といった5つのステップがあります。


引用:芝大門人権講座 吃音児・者と母親の人権を守る医師 資料

先述の通り、母親が孤独に追い詰められてしまうことは、当事者である吃音児・者にとってもよいとは言えません。
母親がこの段階を順調に上がっていけるように、言語聴覚士などの専門家が母親の味方になって、サポートしていく必要があるのです。

求められた配慮に応えること

吃音は、「発達障害支援法」(2005年施行)および「障害者差別解消法」(2016年施行)の対象となっています。つまり、障害者手帳がなくとも必要な配慮を求めることができるのです。

私たちにできることは、「吃音児や母親から求められた配慮をする」こと。
一般の方は突然配慮して、と言われても戸惑ってしまいますから、まずは言語聴覚士などの専門家が率先して啓発していくのがよいでしょう。
たとえば……

学校の先生に、あらかじめ吃音について知らせておく
吃音児にとって、一番つらいのは「先生の理解を得られないこと」。吃音について理解があり、協力してくれる大人の存在は、大きな心の支えになります。
高校三年生までであれば、学校に配慮を求める書状を出しておくのがいいでしょう。迷っている母親の方がいれば、ぜひ背中を押してあげてください。
英検に追加された吃音症の配慮について協力する
英語能力検定試験では2014年より、面接試験を受験する吃音者のための配慮が追加されています。面接官が吃音者の発現の際に、注意深く聞くよう配慮をするというものです。
この配慮を受ける際には「診断書の添付」が必要ですが、この書類は言語聴覚士からも出すことが可能です。
大学入試の際に配慮を求める手紙を出す
面接試験の際に発言の順番を考慮してもらう、時間がかかっても急かさないようにしてもらうといった配慮を大学側に求めることができます。
こうした要望がスムーズに通るようには、まず専門家による認知度の向上・普及活動が欠かせません。

吃音児・者が「どもる権利を得る」安全な社会を目指す

引用:芝大門人権講座 吃音児・者と母親の人権を守る医師 資料

吃音児・者が「どもる権利を得る」安全な社会を目指す。
菊池先生が講演の結びとして、最後のスライドに出した内容です。

吃音児・者が孤独を感じて追い詰められないように。吃音に対する無理解を苦に、吃音者が命を絶ってしまう悲しいことがもうないように。
「どもってもいいんだよ、それもあなたの一部なんだよ」
吃音児・者を理解して、聞き手が意識を変えること。私たちがまず「理解を示す」ことこそが、差別のない社会を作るための第一歩なのです。

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