日本の鍼灸の良さ、世界へ

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鍼灸師。ドイツ人。22才頃ドイツを後にして、弓道を勉強するため来日。日本で好きな東洋的思想に基づく職業を得る為で、鍼灸を含めて東洋医学を勉強しはじめ、3年後鍼灸師の国家試験に合格。更に、研究を深めるため、日産玉川病院において、代田先文彦生のもとで4年間東洋医学の臨床研究に励む。1995年神奈川県葉山町の元町で一人の職人として開業。

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今回の話は治療そのものではなく、治療に関する書物に少々触れてみたいです。
幾分「差別的」なものですので、最初からお詫びしなければなりません。
差別的と言うのは、主に鍼灸や日本の伝統的なものに触れるつもりです。
整体、カイロなどの技術はどちらかと言えば元々海外の物で、海外で優れている資料が沢山ありますので、ここでは海外にない、日本の独特のもの称えたいと思います。

海外に無いかは議論の余地がありますが、下記の内容は日本語以外の言語で書かれている資料が非常に少ないと言っても過言ではないでしょう。
伝統や文化全般の話をする資格はありませんので、少々分かる鍼灸の分野に限らせて頂きます。
海外に存在する日本の(鍼灸)資料は最初から非常に少なく、あるものもまた質が悪い、目的が定かではなく、内容が不適切であるものが決して少なくありません。

翻訳者として以前そのような「資料」の翻訳が依頼されたことが何度かありました。そのうち本(指圧関連)を丸ごと翻訳しました。
幸いと言ってよいでしょうが、翻訳会社から依頼された仕事ですので、私の名前は「翻訳:○○さん」として出てきませんでした。
何故幸いかと言えば、その本の内容は出鱈目で、日本の文化・伝統に恥をかかせるものだと確信していたからです。

このような質の悪いものの他には、宣伝目的の文章(自費出版のものを含む)など本当に何を言いたいのかが良くわからないものもあります。
その代わりにいわゆる伝統的・歴史的価値のある資料の訳文が一切なく、それに関する二次的や三次的な参考書しかありません。関連するエピソードを一つ披露しましょう。

価値ある資料の翻訳なのに……

私は30余年昔、玉川病院で代田文彦先生の元で4年ほど勉強させて頂きました。代田文彦先生は例の有名な代田文誌先生の息子でした。
代田文誌先生は近代日本の鍼灸の「お父さん」の一人で、近代鍼灸史は文誌先生なしでは語れません。また、代田文誌先生の師匠であった澤田健先生の業績はほとんど代田文誌先生の書籍を通してしか知り得ません。
と言いながら、最近の若い鍼灸師のなかに文誌先生を知らない人が多いと分かった時はかなり驚きました。

以前こちらの治療院に来たアメリカ人鍼灸師(現在アメリカで開業)は代田文誌先生の「噂」を沢山聞いて、例の二次的資料も読んだそうですが、出来れば原文(訳文)を読んでみたいから、是非とも翻訳をして欲しいと頼まれました。
その時期翻訳の仕事が少なかったため、ボランティアとしてやりましょうと提案しました。

しかし、出版社に翻訳の許可を頂けるかどうかを尋ねたところ、あくまでも契約を結んで「商業ベース」であることが条件でした。
基本的に「商業ベース」に異存はないが、契約の条件は「翻訳者の仕事」としては金銭的に「ただ同然」になり、つまりボランティアと変わりません。ただし、契約ですので、例えば納期が守れなければ罰則まで適応されます。
ほぼ無料で働いて(あげる)のに、罰せられる可能性を承諾しなければならない理由は私にはよくわかりませんでした。
結果として、翻訳してあげる案を撤退させて頂きました。

日本の文献は広まるべき!

また、以前海外の学会で出店していた出版社に「翻訳された日本の書物を貴国で出版することは検討することが可能でしょうか」と尋ねたところ、例外なく一言で断られました。
理由の一つは中国の書籍=本物、日本の書籍=マネに過ぎない。そして、「日本人が書いた本でしたら、東洋人の思考パターンはヨーロッパの人に馴染まない」と言われました。

従って、自費出版や何かの人脈では妙なものが出ますが、日本の良さを示す、歴史的価値あるものは永遠に闇に葬られたままになってしまいます。

ここでは十分に説明するスペースはありませんが、1995年の全日本紫宮学会で特別講演に呼ばれたアメリカのNIHの代表者が講演で「質の悪い文献しか手に入らなかったから、例のNIHがその前年度頃で発表した『鍼灸に関するコンセンサス』が得られるまで20年も要した。もし日本の文献の英訳があれば、同じ作業は3分の一の時間で終了したはずでした」とのこと。印象的な発表でした。

日本の良さをこのように闇に葬ってしまうのは……もったいないです!

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